2014年08月19日

特殊奏法 プリペアド編

ある日、僕が自分のギターの音色が気に入らなくなったというと、クラーク氏は言った。
「罪の無い者だけが石を投げろ!ならば、君もプリペアドすれば良いではないか」



 ここでは、ギターに予め細工を施す奏法、「プリペアド奏法」について解説します。
「プリペアド(prepared)」とは、「準備された」という意味であり、ピアノの世界ではジョン・ケージがその先駆者として余りにも有名ですが、弦楽器の世界では彼を遡ることはるか以前から「プリペアド奏法」は行われてきました。
ここでは、膨大な「プリペアド奏法」の数々の中から、身の周りの道具で簡単に再現できる幾つかを簡単に紹介します。


★ネック・ウェイト
 その事に何の意味も見出さず、ただ便利だからというだけの理由で使わないカポタストやクリップ式のチューナーをギターのヘッド部分に取り付けたまま演奏している奏者をよく見かけますが、これは特殊奏法の求道者としては余りにも無神経だと言わざるを得ません。
 何故なら、その事によって生まれる音程変化は、時に楽器屋で何本ものギターを試奏して気に入った一本を選び出す以上の効果があるからです。
(具体的にはアコースティック・ギターの場合、同じメーカーのワンランク上のボディが大きなギターを弾いた時の音色に近くなったりします)

 ならば特殊奏法の実践者としては、この「ウェイト(ヘッド部分のおもり)」を積極的に利用しない手はありません。
(ベース・ギター用には専門の器具が高値で売られていたりしますが、テノール・ギター(いわゆる普通のギターの事)の場合、ほんの僅かなウェイトによって音色が大きく変化する為、前述したカポタストやクリップ式チューナーで十分代用できますす)

 ここで重要になってくるのが、ウェイトを取り付ける位置です。
 前述のカポタストやクリップ式チューナーは、何気なくヘッド先端に取り付けている人が多いと思いますが(また、それ以外の位置だとペグの調整に支障をきたす為)、試しにその位置に他の部分に少しずらしてみてください。
 ウェイトの位置により、中音域、特にハーモニクスの音量などに変化が生じるのが分かると思います。
(これを積極的に利用する事により、音域やポジションによって音量に差のあるいわゆる「欠点ギター」や奏者自身の「悪い癖」、ギターを何本か持ち帰る際の「ギター独特のクセのバラつき」なども補正する事が可能です)

 気に入ったポイントが見つかったなら、ヘッド裏に「五百円玉」等をウェイトとしてガムテープで取り付けたり、ホーム・センターで手に入る「ミニ万力」をより強力なウェイトとして取り付けるのも一考です。


★ミュート奏法
 特にエレクトリック・ベース・ギターにおいてはコントラバスのピチカート的な音色を生むためによく用いられる奏法です。
(他に、スラップ・ベース奏法におけるノイズを抑制する為に用いられる事もあります)

 この奏法は、主に上述したような目的で用いられる「ブリッジ・ミュート」と、「人工ハーモニクス奏法」におけるノイズを抑制する為に用いられる「ヘッド・ミュート」の二種類があります。 後者は「ハーモニクス編」の解説に譲るとして、ここでは主に「ブリッジ・ミュート」について解説します。 (一点、「ヘッド・ミュート」に関しては、ヘッド部分にバンダナや紐飾りなどを垂らしておき、必要な時だけナット上それを被せてミュートする用法がある事を上げておきます)

 ギターにおけるミュート奏法は簡単なようで意外と難しいものです。
用いるのはスポンジやティッシュ、綿など何でも応用可能ですが、肝心なのは、
・必要以上にミュートし過ぎないこと(特に音域ごとのバラつきがない)。
・ギターのボディ表板の振動を殺して全体的な音量を落とさないこと。
・演奏中に誤って外れないこと。
・そして上記とは矛盾するようですが、必要に応じて着脱が容易である事。
などです。

全弦をミュートするなら、クラシック・ギターの練習用に販売されている「弱音器」を用いることも可能です。
(その場合、ブリッジぎりぎりに取り付ける事とより大きい音量に、ネック側に近づけるほど「ミュート効果」は大きくなります)

 また、ソロ・ギターやコード&ベース・バッキングにおいては五弦、六弦のみにミュートを取り付ける事でも面白い効果を生むことができます。
その際には五弦と六弦を挟むように切り込みを入れたスポンジ(ギターの表板に触れないよう注意)を準備する方法をお勧めします。


★シズル奏法  ブリッジ付近の弦に、文房具のゼムクリップ等を取り付けてシズルー効果を生み出し、「ガムラン(インドネシアの伝統音楽)」的な音色を出す奏法です。
(シズルとは水しぶきや肉が焼ける時の「ジュージュー」という音の事。「瑞々しさ」といった意味で使われる事もあり、また、器楽用語としてはそうした音色を生み出す器具そのもの(シンバルに穴をあけて鋲をを取り付けた楽器が代表的です)を指す場合もあります)

 この場合、取り付けるクリップの量が多いほど音色が強烈に変化し、音程感が希薄になるのは言うまでもありません。
シズル効果を生むと同時に弦自体をミュートして減衰音を著しく衰えさせる効果もある為、一般にこの奏法はパーカッシブなものと考えられており、主として激しくコードをかき鳴らすバッキングにのみ用いられています。
 しかしながら、工夫次第でリード・メロディにも応用は可能です。
例えば低音弦だけにゼムクリップを取り付けて高音弦のみでメロディを行う場合、ギターの傾け方次第で任意のタイミングにだけシズルー音を出すといった事が可能です。
 勿論、この逆に高音弦だけにクリップを取り付けて、低音弦でベース・メロディなどを弾き、右手の支えを開閉する事で好きな時にだけ「シズルー効果」を生じさせることも可能なのです。
(*この例に限らず、シズル奏法において「ギターの傾け方」は音色に大きく作用する重要なポイントです)

 当然ながら取り付けるクリップの大小、形状(楕円型か長三角形型か)、スチールかアルミか、ゴム・コーティングされたものか、厚み、表面の仕上げ(光沢仕上げかデコボコ型か)、など様々な要因によっても音色は変わってきますが、とりあえずは身の回りで手に入る品で色々と試すのが一番でしょう。
 繰り返しになりますが、この奏法においてギターの傾け方、加えてピッキングの強さや向きが重要なのは言うまでもありません。

 また、同様の奏法を「安全ピン」や「カード・リング(穴あけカードをまとめる為の金属製の輪)」を用いても行う事が出来ます。
その場合、「安全ピン」はその複雑な形状が弦に絡まる場合がある事、「カード・リング」は適切な大きさのものを選ばないと重量や容積がありすぎて弦をミュートし過ぎてしまう事といった注意点が挙げられます。

また、振動力の大きなギターを用いる際には、ヘッド部分のナットとペグの間や(テールピースのあるギターの場合)ブリッジとテールピースの間の弦に「シズル」を取り付ける事で、演奏に支障を来さず(持続音を減衰させず)にシズル音を生むこともできます。
(この場合、ガムランというより、「シタール(インドの古典楽器)」奏法と呼ぶべきでしょうか)

★その他  ギターのブリッジ付近、或いはナット付近にアルミ箔、セロファン、薄紙、輪ゴム、毛糸、その他、様々なものを取り付ける事により、前述したミュート効果やシズル効果、その他様々な効果を生むことが出来ます。
 工夫次第で貴方のギターの可能性は無限大に広がります!
(例えば、高音弦にシズルを取り付け、中音弦はそのまま、低音弦にはミュート、等々組み合わせ方も無限大です)



★シミュレーション奏法
 ギターを用いて他の弦楽器の音色を模倣する奏法です。
 様々な奏法がある為、筆者はとしてはここで、例として「ウクレレ」を模倣する奏法を紹介するに留め、以降は賢明なる読者の皆さま方の創意工夫にお任せする事にしたいと思います。

・ウクレレ奏法
 まず重要なのは弦の選択で、これはクラシック・ギターやフラメンコ・ギターに用いられる「ナイロン弦」(或いは入手可能なら「ガット弦」)がベストです。
これを、五弦六弦は外してしまい、四弦には一弦用(可能ならアルト・ギター用の一弦などより細い弦)を張って、これを通常の一弦より一音半高いG音にチューニングします。
そして、五弦にカポタストを取り付け、ウクレレ用のソフト・フラット・ピックもしくは親指で優しく爪弾けば完成です。

 と、ここまではあらゆる書物に書いてある用法ですが、筆者はウクレレ独特のテンション感を出すため(加えて前述した細い高音弦が入手しにくいこともある為)、上記のチューニングを全音下げ、代わりに7フレットにカポタストを取り付ける方法をお薦めします。
(或いはお使いのギターがロング・スケールの場合には、上述のチューニングを一音半下げ、8フレットにカポタストを取り付ける等、様々な創意工夫が可能です)

 そして、よりウクレレっぽさを出すには小さいボディ独特のサスティンの無さ(音の歯切れの良さ)も重要なポイントです。
これには、既に前記した「ミュート奏法」の応用が可能ですが、余りミュートをかけ過ぎると「それらしさ」を失う為、ベストな軽いミュートのかかり具合を各自研究してみてください。
また、より近い音色を追求したい方には(この時点で本物の「ウクレレ」を購入した方が楽だという事にお気づきかも知れませんが)、ボディの表板(或いは見た目を気にする方は側板や裏板の全面)にガムテープ等でウェイトを施し、ギター独特の「深い鳴り」を殺してしまうというのも一つの方法です。

* また、本家の「ウクレレ」自体にも様々なチューニングや弦の張り方のバリエーションがあります。
但し、それらを紹介する事は本項の主旨と離れる為、興味のある方は次号「役に立たないウクレレ講座」の刊行をお待ちいただくか、他サイトなどをご参照ください。
タグ:ギター
posted by Clark at 05:39 | Comment(0) | 特殊奏法 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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